小説 | ナノ


▼ ミント様

わたしには飛雄ちゃん、という2つ上の年上の幼馴染がいて学校生活以外はどこに行くにも何をするにも飛雄ちゃんと昔からいつも一緒だった。そんなわたしたちも中学生になり飛雄ちゃんは三年生、わたしは一年生で同じ学校に通いまた一緒に帰れることがとても嬉しかった。

「名前、帰んぞ」

飛雄ちゃんと違ってスポーツが苦手なわたしはいつも飛雄ちゃんの部活が終わるまで図書室で時間を過ごしていた。今日も部活終わりの険しい顔をした飛雄ちゃんを笑顔で迎えて一緒に帰る。最近の飛雄ちゃんは少し、怖い。

「飛雄ちゃん」
「あ?」
「手、繋ご?」

飛雄ちゃんの怖いオーラが少しでも柔らかくなるように、わたしは飛雄ちゃんの手をギュッと握る。その瞬間から飛雄ちゃんはいつもの飛雄ちゃんに戻ったような気がしてわたしは安心した。
バレーをしてる飛雄ちゃんのことは大好きだけど、バレーをして怒ったりイライラする飛雄ちゃんは少し、怖い。だから少しでもいつもの飛雄ちゃんになれ〜!と気持ちを込めて手をにぎにぎと握っていると飛雄ちゃんが不思議そうにこっちを見てくる。

「なんだよ、さっきから」
「なんでもない!」
「なんでもなくねーだろ」
「なんでもないって言ったら、なんでもないの!」
「なんだよそれ」

と、飛雄ちゃんが笑ってくれてわたしは思わず作戦成功!と笑顔になってしまう。今日も仲良く手を繋いで飛雄ちゃんの家に帰りわたしも一緒にご飯を食べて飛雄ちゃんの練習を見る。そんな日々がずっと続くと思ってた。

最後の大会で、飛雄ちゃんが上げたボールはそのまま床に落ちてしまった。そしてそのまま飛雄ちゃんはコートから出てしまい、わたしは観客席でただ呆然と立ち尽くしてしまっていた。飛雄ちゃんがいないコートに興味はない。帰り道、飛雄ちゃんは何も言わなかったし、わたしも何も言えなかった。ただ繋がれた手は力強く、前を歩く飛雄ちゃんの背中が悲しんでるような、怒ってるような、わたしはただ飛雄ちゃんの後ろを歩くことしかできなかった。

季節は過ぎ、春。飛雄ちゃんの新しい制服姿が格好良くて家の前でお母さんにお願いしてツーショットの写真を撮ってもらう。その写真を嬉しくて待ち受けにすると飛雄ちゃんが恥ずかしそうにわたしの頭を撫でて学校へ向かって行った。一緒に通えたのもたった一年で、また今日から二年間飛雄ちゃんと離れてしまう寂しさで胸が痛かった。
高校でも飛雄ちゃんはバレー部に入部し、最初こそ早い時間に帰ってきてたみたいだけど今はもう朝も夜も会うことは少なくなっていった。
幼馴染離れしなきゃ、とも思うけどそんなすぐに離れられるわけもなく今日もわたしは飛雄ちゃんの部屋で飛雄ちゃんの帰りを待っていた。

「また来てたのか」
「うん、でももう眠いから帰る」
「帰んなよ」

帰ろうと立ち上がるわたしを飛雄ちゃんの手が引き止めてそのまますっぽり飛雄ちゃんの腕の中に閉じ込められる。前に抱きしめられた時より飛雄ちゃんの体が大きくなってる気がして心臓がバクバクと動いていた。

「飛雄ちゃ、恥ずかしい」
「いいだろ俺しかいねぇんだから」
「うー...でも、恥ずかしいもん」
「無理。もう少しこうさせろ」

飛雄ちゃんの膝の上に座らされ、視線がかち合う。飛雄ちゃんの顔が近付いてきて、急に込み上げてくる羞恥心は今まで感じたことのないもので顔がみるみる赤くなっていくのを自分でも感じた。

「寝る!もうおわり!かえる!」

無理矢理立ち上がり「おやすみ!」と吐き捨て飛雄ちゃんの部屋を飛び出て自分の部屋に戻る。帰り際に見えた飛雄ちゃんの耳もわたしと同じくらい真っ赤になっていた、気がする。

もしかしたら飛雄ちゃんは、わたしのこと幼馴染としてじゃなくて好きでいてくれてるのかな。わたしは飛雄ちゃんに好きって言われたら、同じ好きを返せるのかな?そんなことを考えていると、先の方に飛雄ちゃんが歩いてるのが見えて声をかけようと走り出そうとして、辞めた。隣に飛雄くんと同じ制服を着てる女の人が見えて、わたしは初めて飛雄ちゃんがわたし以外の女の人と笑ってるのを見た気がする。心の中のドロドロとしたものが一気に溢れ出して世界で一番自分の性格が悪い気がして涙が溢れそうだった。胸が、痛い。

女の人の手が飛雄ちゃんの肩に触れる、やめてやめてやめて触らないで。わたしの飛雄ちゃんに、触らないで、話さないで、見ないで。わたしが知らない飛雄ちゃんを見ないで。そんな気持ちでいっぱいになり飛雄ちゃんに会わないように遠回りをして家に帰った。家に帰るや否や部屋に篭ったわたしをお母さんは心配してくれたが「放っておいて」と一言だけ言ってベッドで声を殺して泣く。飛雄ちゃんの隣がずっとわたしのものだって思ってたけど、そんなことなかった。泣き疲れて寝てしまっていると、もう外は真っ暗になっていた。目を覚ますと身動きが取れず、驚いていると飛雄ちゃんの声が聞こえる。

「起きたか?」
「なん、で」
「部活早く終わって会いに来たら機嫌悪ぃって名前の母さんが言ってて。様子見に来てお前の寝顔見てたら俺も眠くなったから寝てた」

飛雄ちゃんの親指がわたしの目元をなぞる。さっきは暗くてあんまり見えなかったけど、今は飛雄ちゃんの顔がよく見えるようになって恥ずかしくなる。

「誰に泣かされた?」
「っ、」
「お前を泣かす奴は俺が許さねぇ」
「バカ」
「あぁ?お前に言われたくねぇ」
「飛雄ちゃんのバカ!」
「あんだよ」

飛雄ちゃんの指が目元からほっぺに移動して、そのまま唇を触られる。いつもより大人っぽく見える飛雄ちゃんにドキドキしっぱなしで頭がぼーっとしてきた。

「あんま可愛い顔で見てんじゃねぇぞ、ボゲェ」
「見てないもん」
「そんな顔してっとキス、すんぞ」
「好き?」
「今更何言ってんだよ」

飛雄ちゃんがキスをしてくる。いきなりのことで目も閉じれなかったし全然一瞬でわかんなかった。

「お前が産まれてきた時から俺は名前のこと守るって決めてんだよ」
「飛雄ちゃん、王子様なの?」
「本当におめーはボケだな」
「ひどい、!」

2回目のキスはさっきより少し長くて、目も閉じれたし飛雄ちゃんの唇が柔らかいこともわかった。

「名前、好きだ」
「ずるい」
「これから先も、ずっと俺だけ見てろ」
「飛雄ちゃんこそ他の女の子と仲良くしないで。一緒に帰ったりしちゃ、やだよ」
「お前、もしかして」
「飛雄ちゃんに彼女出来たのかなって泣いてたの!悪い?!」

3回目のキスは、ずっとずっと長くて、何回も唇をぶつけられて。たまに聞こえるキスの音が恥ずかしくて目をぎゅっとつぶってしまった。

そのまましばらく抱き合ってると飛雄ちゃんとわたしのお腹が同時に鳴り、目を見合わせて笑った。2人で手を繋ぎながらリビングへ降りるとお母さんがわたしの大好きなオムライスを作ってくれていて2人で食べ、テレビも一緒に見て、肩を並べて歯磨きをして、それからキスをして一緒に寝た。

これから先、何回も何十回も、何百回もキスをするけどキスをする度に今日のことをわたしは思い出す。

「影山選手、一言お願いします」
「名前!結婚すんぞ!」

東京オリンピックの試合後のインタビューで、公開プロポーズしてきた飛雄ちゃんはあの時と同じように笑っていて、どれだけ遠い存在になっていてもわたしの大好きな、わたしだけの飛雄ちゃんだった。




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